世界の海は健全か? 鯨の「鼻水」で解明

Whale tale

ドローンと高度な AI プログラムを手にした科学者たちは、鯨と海、ひいては人間の健康についての知見を深めています。

世界の海に生息するさまざまな海洋生物と同様に、鯨は今、これまでにないほど多くの脅威にさらされています。 水質汚染、騒音、船舶との衝突、漁業用の網に加えて、気候変動による生息地や食料の減少から来るストレスなど、あらゆることがこの海の大型生物にとって不利に働いています。

鯨の健康状態を調査するには、以前はこの巨大な哺乳類の死骸を解剖するか、生きた鯨を追跡し、細胞組織のサンプルや排泄物から、DNA やホルモン、その他の検体を採取する必要がありました。 これは骨の折れる難しい作業です。

そこで、Parley SnotBot の出番です。

最近のアラスカ南東部への探検で、科学者はシャーレと人工知能 (AI) を搭載したドローンを使用して、鯨の潮吹きから「鼻水」を採取しました。 鯨の肺から吐き出された「鼻水」によって、この巨大生物の保護に役立つ重要なデータが明らかになります。

同時に、人間の健康についての知見も得られます。鯨と同じく、人間も持続可能性に関する数多くの脅威に直面しているからです。

「生体データ、DNA、妊娠ホルモン、ストレスホルモン、微生物叢 (びせいぶつそう: ある特定の環境に生息する微生物の集まりのこと) を採取しています」と説明するのは、Ocean Alliance の CEO、イアン・カー博士です。Ocean Alliance は、鯨やその他の生物について、毒性、行動、生物音響、遺伝などのデータを収集し、世界の海の健全性を守るために尽力している組織です。

「この全く害のないツールで収集している情報の量は膨大です」とカー博士。

Parley SnotBot は、Ocean Alliance と、海洋環境保護団体の Parley for the Oceans、インテルのコラボレーションにより開発されたドローンで、これによって鯨のフィールド研究の実施方法が変革されています。

プロジェクトを通じて収集したデータを集約することで、極めて貴重な生物学的スナップショットが得られます。 ドローンは写真付き証明書を取得するだけでなく、鯨の位置やサイズ、社会的関係、家族関係に関する情報も収集します。

飛行するドローン SnotBot
できるだけ生体を傷つけない方法で鯨のデータを収集する Parley SnotBot ドローン。 写真提供: クリスチャン・ミラー氏。

これまでに Parley SnotBot を使用して、シロナガスクジラ、セミクジラ、コククジラ、ザトウクジラに加え、最新のアラスカ南東部への探検ではシャチにも対象を拡げて潮吹きの水を収集しています。

「潮を吹いたぞ」-新世代の鯨発見

インテルの Mind's Eye Lab のシニア・プリンシパル・エンジニア兼ディレクターのテッド・ウィルクによると、研究者は「ドローン用空母」のような小型の船を使用して鯨の探索から始めます。

ウィルクのチームが作成した AI プログラムは、最新のアラスカ探検でデータの収集と分析に使用されたものです。ウィルクによると、研究者は潮吹きを目印に鯨を発見するそうです。

「我々のチームには、適任のキャプテンがいます。 キャプテンはこの辺りの入り江や海峡に詳しく、どこで特定タイプの鯨に遭遇する可能性の高いかを知っています。 そのため、離れた場所でドローンの飛行を開始します。

見事な白い霧を柱状に吹き上げるので、

常緑樹や空、地面などの背景に対して非常に目立つのです」とウィルク。

チームは、2 ~ 3 マイル (約 3 ~ 5 キロメートル) 離れた場所で「空母」からドローンを発進させます。 ドローンは高度 100 フィート (約 30 メートル) を少し切る高さで飛行するため、鯨は観察されていることに気づきません。 ドローンは高解像度ビデオで連続的に撮影しながら鯨に接近すると、高度を下げ、ドローンの背に取り付けたシャーレに鯨の潮吹き (呼気凝縮液: EBC) を採取します。

船から発進する SnotBot
鯨の邪魔をしないように十分離れたところに錨を下ろした船から発進するドローン。 写真提供: クリスチャン・ミラー氏。

「想像してみてください。これはとても正気とは思えない作業です。 船の先端に立っていると、このドローンがすべての羽根を回しながら戻って来ます。 手を伸ばして空中のドローンをつかもうとしますが、外洋にいるので、波に揺られて上下してしまいます」とウィルク。

実際問題、指を切断する危険もあると言います。

リアルタイム分析から研究の方向性を決定

チームが潮吹きの水を分析するのは外洋から戻った後ですが、撮影した映像はリアルタイムで確認します。

ウィルクは、「生中継の映像を受信しながらフレームを切り出すプログラムと、映像をリアルタイムに分析できるようにバッファリング (映像を再生する前に、数分から数秒間の映像を PC の中に溜め込んでおくこと) するプログラムを開発しました」と説明します。

その仕組みはこうです。毎秒 60 フレームのフル解像度の映像が、ドローンからワイヤレスでリモート・コントローラーに送信され、MacBook Pro に入力されます。 そして、この画像は 2 つの分析プログラムに通されます。1 つは尾びれによって鯨を識別。もう 1 つは体積を分析して、鯨の脂肪、胴回り、体長を評価し、健康な体重であるかどうかを確認します。

この貴重なデータから得られる情報を使用して、科学者はすぐにフィールド調査の方向性を定めることができます。

「対象が以前に観察したことのある鯨である場合は、時間をかけて鯨の状態変化を調査することになる可能性があります。 特定の鯨を追跡し、本当に適切なサンプルであるかどうかを確認したいと思うこともあります」

科学的な謎の解明

「鯨に関して興味深い点は、1 つには、海の食物連鎖の最上位にいる哺乳類であること。2 つ目は、世界中どこにでも生息する極めて普遍的な汎存種 (はんぞんしゅ) であることです。 つまり、鯨は海の健全性を示す良いバロメーターなのです。危険が迫っていることを知らせてくれる“炭鉱のカナリア” (有毒ガスを検知すると鳴くのをやめるため警報として使用された) の役割を果たします」

鯨の潮吹きの中を飛行するドローン
鯨の潮吹きの中を飛行して、取り付けられたシャーレにサンプルを採取する SnotBot。 写真提供: クリスチャン・ミラー氏。

鯨の健康は人間の健康に直接関連すると聞くと、人は誰でも注意を払いたくなるでしょう。 30 年前、鯨にとっての最大の脅威は商業捕鯨でした。 現在の海は、大量の化学薬品などの汚染物質、気候変動による生息地や食料の減少、耳が聞こえなくなるほどの騒音公害に脅かされています。

「鯨に起きていることは、おそらく人類にも起きます。 鯨が実際に直面している脅威のうち少なくとも 50% は、実際に人類が直面している脅威なのです」とカー博士。

また、「鯨の健康状態を調査するとき、従来の方法では鯨にストレスを与えることがあり、正しいデータが得られませんでした。 これは、観察者効果と呼ばれる問題です。データを収集する行為そのものがデータを変化させてしまうのです。

しかし、SnotBot によって状況は一変するでしょう」と説明。さらにこう続けます。

SnotBot drone
Orca whale
Two whale tails
Whales in Alaska
Whales in Alaska
Crew analyzing SnotBot data

「人間はこの膨大なデータの中で生きています、インテルが開発した AI とマシンラーニングのアルゴリズムなら、研究者が必要としながらもお手上げ状態だった膨大なデータを合成できるはずです」

そこで、鯨の生態を調査する最先端のドローン SnotBot が、世界中の研究者の役に立つことを期待されています。

数多くの科学調査が高額な大型船を使用して実施されていますが、高額な船舶を購入できない国も少なくありません。しかし、ドローンなら比較的安価です。

「今が科学にとって大きな転換点であると思います。世界中で大型調査船を 10 隻所有する代わりに、我々はあらゆるデータを収集してくれる 1,000 台の小さなドローンを入手しました」とカー博士。

チームは、引き続き SnotBot を拡張し、可能な限り、鯨の健康を守るための重要な要因を調査し続ける予定です。

「いかにもシリコンバレー発といったクールな製品を作るだけが、シリコンバレーの役割ではありません。 地球を救い、科学的な謎を解明するために、AI は実際に役に立つのです」とカー博士は語っています。

 

編集者注: 鯨の画像は NMFS 許可 18636 を使用して掲載しています。 この記事に写真を提供いただいたハビアー・テューレック氏とテッド・ウィルク氏に感謝します。 

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